離れていても手紙でつながる親子の絆

あなたは最近、誰かに手紙を書きましたか?
これは、ある女性ご利用者(Mさん)と娘様との心温まる手紙のやりとりのお話です。

Mさんは長女と孫夫婦、ひ孫と一緒に大家族で暮らしていました。子供が大好きで、特にひ孫さんをとても可愛がられていたそうです。
高齢になるにつれ、物忘れが出てきたり足腰が弱り始めたりしたことで身の回りのことをするのが難しくなってしまい、娘様の介護を受けながらデイサービスやショートステイを利用しながら自宅で過ごされていました。

認知症が進行し、家族に囲まれた穏やかな日も次第に変化してきました。

「働かなければ」と夜中に起き出して家の中を歩き回ることや、外に出て近所の方から心配されることが増えてきました。

それはなぜでしょうか。
Mさんの人生を辿ると理由が分かります。

昔は夫婦で農業をしていましたが、夫を亡くされた後は夜中2時に起きて新聞配達や牛乳配達をして家計を支えていたからです。
そんなMさんを献身的に看ていた娘様も家事や仕事、孫の子守をしながらの母の介護に疲れ、特別養護老人ホームへの入所を希望されるようになりました。

そんな中、Mさんは大病を患い入院。寝たきりの状態になってしまいました。
表情も乏しく、お話することも難しい。
寝たきりの状態で、自宅での介護はできない。
様々な理由から特別養護老人ホームへの入所が決まりました。

施設に入所したての頃は、食事や排せつなど、すべてにおいて介助が必要であり、コミュニケーションをとることもままならない状況だったMさん。

しかし、食事のテーブルの向かい側にいるLさん(女性)と毎日顔を合わせることで、互いに心が通い合い、馴染みの関係を築かれたようでした。
食事が進まない時でも、Lさんから「Mさん、ご飯食べれ~」と声を掛けられることで、不思議とスプーンを持つ手が進みます。
1口、2口…気づくと完食!

食事だけでなく、日中の過ごし方も良い変化が表れてきました。

以前は絵を描くことが好きで、中でも“女の子”の絵を描くことが得意だったことを覚えていた職員が、Mさんの変化に気づき絵を描くよう促してみました。
鉛筆を持ち、しばらくすると、

「できたよ!」

描いたのは“女の子”でなく、Lさんの顔でした。

今のMさんにとって、Lさんの存在の大きさが分かる出来事でした。
そのことを娘様に電話でお伝えしたところ、大変喜ばれ、後日Mさん宛の手紙が届きました。
娘様からの手紙に感激したMさんもお返事を、とペンを持ち手紙を書かれました。

〇〇(娘)へ
私も元気です
お手紙ありがとう
お友だちとも元気です
また会える事を願っています

Mより

娘様はMさんを特別養護老人ホームへ入所させたという後ろめたさに似た感情や不安な気持ちが拭えなかったと言います。

一緒に住めない、顔が見れない、手をかけてあげられない。
そんな娘様の気持ちもすべて理解され、受け止められたMさんの母親としての、大きくて温かい気持ちは、認知症になっても消えることはありません。

親子の絆は時に形を変えながら気づき、思い出し、慈しまれていくことでしょう。
お互いを大切に思い、手紙のやり取りは今も続いています。

ご利用者の皆様にはこれまでの人生を共にした大切な家族がいます。
それは、夫婦であったり、親子であったり、孫であったり。

ですが、新型コロナウイルス感染症の影響により施設での面会も難しい。
思うように会えない。

そんな状況だからこそ、離れていても、互いの顔を思い浮かべながら“元気でいてほしい”との願いを届ける。家族の絆を繋ぎ、紡いでいく。

そんなお手伝いをこれからもできるよう、ご利用者とご家族の気持ちを大切にしながら、心を込めてご支援させていただきます。